くりでん 悪質利用客増加

くりはら田園鉄道:消えゆく『くりでん』人気の影に 悪質利用客が急増 /宮城

◇事故防止装置も紛失
 来年3月31日の廃止を前に全国から多くの鉄道ファンが訪れている「くりはら田園鉄道」(石越―細倉マインパーク前)で、一部の心ない利用客が無断で駅施設に立ち入ったり、珍しい備品が無くなるなどの被害が相次いでいる。職員OBらで作る「くりでん応援クラブ」は、「たくさんの人が来てくれるのはうれしいが、目に余る行為が発覚した場合は警察に通報せざるを得ない」と訴えている。

◇駅事務所に無断侵入…農作物踏みつぶす…
 同クラブ会員の児玉直人さんによると、同鉄道では今年に入ってから、「消えゆく鉄道を一目見よう」と利用客が急増。1両編成(定員103人)で1日12往復しか運行していないため、特に週末には駅員が押し込まなければ乗り込めない「山手線の通勤列車並み」の混雑が起きている。
 80年以上の歴史があるくりでん。最近になって、駅事務室内にある珍しい器具を見ようと無断で立ち入ったり、写真を撮るためフェンスを乗り越えてホームに侵入する人も目立ってきた。人気の撮影ポイントでの違法駐車や、線路付近の畑に入り農作物を踏みつぶすこともあるという。
 さらに、11月には使われなくなり駅敷地内に保管されていた「閉塞(へいそく)器」と呼ばれる装置の一部が無くなっていることが分かった。閉塞器は、単線での列車の衝突事故を防ぐため駅長同士が通信に用いる装置。同型の装置が県内にあるのは同鉄道だけと全国的にも珍く、鉄道ファンの間では高値で取引されることがあるという。
 廃止が決まっているため、運行に必要なギリギリの人数で営業を継続。駅員が1人しかいない駅もあり、安全運行に支障をきたす恐れがある。
 こうした事態に心を痛めた同クラブは同鉄道と共同で「くりでんは、みんなの宝物です」とマナー向上を呼び掛けるキャンペーンを始め、(1)列車の往来を妨げる行為の禁止(2)ホーム入場の際は入場券を必ず購入(3)私有地への無断立ち入り禁止――などと呼び掛けるポスター50枚を駅舎や近隣の商店などに張った。児玉さんは「みんなで大切に守ってきた鉄道。有終の美を飾らせてあげたい」と呼び掛けている。

◇被害各地でも
 くりでん応援クラブによると、鉄道をめぐるトラブルとしては、真岡鉄道(本社・栃木県)や兵庫県のJR山陰線にある余部鉄橋などの有名な撮影ポイントで▽私有地に無断で入ってゴミを捨てる▽周辺住民に「邪魔だ」と罵(ば)声を浴びせる▽撮影の障害となる墓石を動かすなどの被害が報告されている。
 また、群馬県の「碓氷峠鉄道文化むら」では、展示されていた列車の部品が盗まれる事件が相次ぎ、容疑者が逮捕されている。同クラブは「重大な問題が起きる前に未然に防止したい」と話している。

毎日新聞 2006年12月14日]