リゾートしらかみ 開業10周年

JR五能線しらかみ号開業10年 ドル箱列車に

 秋田、青森の県境を日本海沿いに走るJR五能線東能代川部駅)の快速観光列車「リゾートしらかみ号」(秋田―青森駅)が、4月で開業10周年を迎えた。昨年10月には利用者数が通算50万人を突破するなど人気が定着し、JR東日本の在来路線では今やシンボル的存在だ。成功の背景には、風光明美な地理的条件と、誘客に取り組む沿線自治体の熱意がある。

<1線区に3編成>
 14日、秋田市のJR秋田駅3番線。「今日で3回目(の乗車)。広い窓から景色を眺め、仲間とゆっくり旅を楽しめるのがいいわね」。知り合い5人と青森県鰺ケ沢町まで小旅行するという、由利本荘市岩城在住の主婦堀井ヤス子さん(65)は、大きめの座席でくつろぎながら、しらかみ号の魅力を語った。
 観光シーズンにはまだ早い時期だが、間もなく迎える黄金週間を境に、秋田駅には全国各地からしらかみ号の利用客がやって来る。石畳の海岸線や日本海に沈む夕日、野趣に富んだ温泉、世界遺産白神山地など、沿線地域に点在する魅力的なスポットが目当てだ。
 JR東日本秋田支社営業課の柴田寿文副課長は「特にゴールデンウイークと夏休み期間、紅葉やハイキング時期の秋がハイシーズン。乗車予約ができないことも珍しくない」と盛況ぶりを話す。集客率は1997年の開業時から5、6割台で推移する堅調さで、当初「青池編成」のみだったダイヤは、03年に「橅(ぶな)編成」、06年に「くまげら編成」を投入。管内では唯一、全国的にも珍しい「一線区、3編成」を実現した。

<観光プラン50種>
 秋田新幹線「こまち」の2次アクセスとして同時開業したしらかみ号は現在、乗客の6割以上が首都圏からの観光客だ。町内に4カ所の停車駅がある青森県深浦町八木橋健観光課長は「しらかみ号が地元にもたらした観光波及効果は大きい」と指摘。合併前の旧深浦町と旧岩崎村を合わせ、97年に約160万人だっ観光客数はこの10年間で210万人台まで増加した。
 トレッキングやきりたんぽ作り、温泉入浴、ガラス製作…。計21の停車駅ではそれぞれ、次の列車が来るまでに乗客が楽しめるよう工夫を凝らす。現在、50種類の観光メニューがあり、「当初は十二湖(深浦町)のトレッキングツアーなど数えるほどしかなかったことを思えば、誘客に掛ける沿線自治体の熱意は大きく、敬服するばかり」と柴田副課長。4月に新たに停車駅となった岩館駅がある秋田県八峰町では、ブルーツーリズム(漁業体験)を活用した観光策を模索するなど、話題は尽きない。

<冬期の集客課題>
 「在来線の成功モデル」(吉田幸一JR東日本秋田支社長)には、課題もある。平日と冬季の誘客促進と、新たな観光戦略だ。団塊の世代を狙った特定商品などで平日誘客は改善に向かっているが、運休が珍しくない厳寒の時期の観光促進には限界がある。2010年には、東北新幹線八戸―新青森駅が開業予定で、秋田駅中心だったしらかみ号発着の玄関口が、青森駅に入れ替わる可能性は高い。
 沿線自治体の中心観光施設の一つである滞在型リゾート施設「ウェスパ椿山」を運営する深浦町第三セクター「ふかうら開発」の石沢優専務は言う。「観光メニューはこの10年でほぼ出尽くした感がある。今後はそれらにどう付加価値を付けていくのか、その真価が問われてくる」と。

河北新報 2007年4月24日]