ブルートレインの今

消えるブルトレ…去りゆく老戦士たち

 ブルートレインブルトレ)の愛称で親しまれてきた寝台列車が3月14日、関西から相次いで姿を消す。新幹線、航空機に加えて高速バスに時間、料金の面で押され続けているのが原因だ。国鉄時代、全国の主要路線を走ったブルトレは30本。しかし今春のダイヤ改正で急行「銀河」(大阪-東京)と特急「なは・あかつき」(京都-熊本・長崎)が消え、関西発着の定期列車は「日本海」(大阪-青森)1往復だけとなり、東京、上野両駅発着も計4本を残すのみ。交通機関の進化に取り残されたブルトレの「ゆとり」や「癒やし」を探った。

■お向かいさん
 JR東海道線の夜の主役・急行銀河。午後10時16分、電気機関車EF65に牽引(けんいん)されて大阪駅10番ホームにゆっくりと入線した。
 カメラを構えていたある男性は3歳ほどの男の子を連れて乗車。「息子と2人で銀河にお別れしようと明朝、東京でちょっとした仕事を入れ、すぐ大阪へ帰る計画にしたんです」と話した。
 静かな車内。切符を見ながらたどり着いた、2段ベッドが向かい合うB寝台では、お向かいさんがすでに手慣れた様子でベッドメーク中だ。
 あいさつを交わすとすぐに話が弾んだ。茨城県へ出張するという、木材劣化診断士の田中康則さん。朝の新幹線で行けば仕事にかかれるのは早くて昼だが、朝6時半すぎに東京駅に着く銀河だと、9時には始められるのが魅力だという。
 「便利な銀河がなくなるのは、利用者としてもファンとしても残念です」。寝ている乗客をはばかって声をひそめつつ、ほんのひととき鉄道談義に花を咲かせながら、ブルトレの旅の極意はお向かいさんと仲良くなることだと悟った。

■レトロ
 京都駅で出発を待つ特急なは・あかつき。牽引する機関車EF66は古ぼけていたが、特別急行だけに許されたヘッドマークが誇らしげだ。
 ホームではカメラを構えていた大阪市の会社員、山崎雅史さんは撮影が好きな“撮り鉄”。国鉄時代の古い車両が好きで、この日は37度台後半の熱をおしてカメラを構えていた。
 「気をつけて」と見送られたが、新大阪駅にも姿があった。新快速で先回りしたといい「次の大阪駅までに、普通電車が追い抜くので、それに乗ってまた先回りです」。それほどまでのんびりした列車はやはり特別だ。
 深夜、窓の外がなぜか気になる。夜の闇が続き、時折止まる駅だけが自分の居場所を教えてくれる。意外に寝つけない。旅の高揚感が気持ちを落ち着かなくさせるのか。新幹線なら必ず寝てしまうというのに。
 一方車内を見回せば設備は木製のハンガーや浴衣、スリッパなど。通路側の頭の上にはボタンを押し込む旧式の読書灯-。レトロといえば聞こえはいいが、前進を止めた老戦士のようだ。

■引退へ
 ブルトレが誕生したのは50年前の昭和33年。20系といわれるブルーの寝台客車で東京と博多を結んだ「あさかぜ」は当時、特急の名にふさわしい最先端の乗り物だった。
 高度成長とともに交通機関へのニーズが多様化し、国鉄も新幹線をデビューさせる一方で、ブルトレの快適性を追求した。食堂車、シャワー、個室…。しかし全国の主要都市に空港が整備され、高速道路が張り巡らされていく中、限界は近づいていた。
 JR西日本によると、現行の3本のブルトレはいずれも利用率は30~40%。子会社を通じて運行する高速バスは、東京-大阪間の夜行が最安で5000円。新幹線のぞみ号の指定席(1万4050円)より高額の銀河(B寝台で1万6070円)にとって、価格で対抗する術はない。
 加えて客車の老朽化や、夜間の要員確保が難しくなったという事情が追い打ちをかけた。
 ダイヤ改正に伴う最終日、両列車上下3本の計1058席は発売開始から30秒で完売。他の日も平日でさえ9割が埋まっている。JR西の担当者は「廃止は時代の流れかもしれないが、もう少し利用者が多かったらと思います」と話した。

産経新聞 2008年2月23日]