通勤電車 各社の工夫

通勤苦を解消せよ! 乗客の分散 急行“廃止”や早起き特典

 技術の進歩で身の回りのサービスは格段に便利になったのに、なぜか満員電車に揺られる日々は変わらない。新社会人が増える4月は年間で最も電車が込む。増発余地が限られる中、鉄道各社はダイヤの工夫などで乗客を分散させようと懸命だ。
 「ラッシュ時は一度体勢を崩すと立て直せない。猛烈な圧力で、おなかが痛くなる」(50代男性)。神奈川県大和市と東京・渋谷を結ぶ東急田園都市線。ノートパソコンの強度PRにも使われた超満員電車は通勤客の悩みの種だ。
 ラッシュを緩和するため東急電鉄は昨年4月、午前8時台に渋谷駅に到着する上り急行を準急に格下げし、二子玉川-渋谷間は全駅に止まるようにした。スピードを犠牲にする逆説的な措置により「220%弱だった急行の混雑率が、準急では200%前後に下がった。列車ごとの混雑の差が縮まり、遅れも減ってきた」と運転計画課の宮下創課長補佐は成果を強調する。
 異例の決断に踏み切らせたのは、慢性的な列車の遅れだった。従来ダイヤでは二子玉川など都心に近い急行停車駅で、各駅停車から急行に乗り換える客が殺到。ドアがなかなか閉まらないために停車時間が延び、遅延が後続列車に雪だるま式に積み上がる悪循環だった。
 「急行廃止」で遅延解消に一定の効果が見られたことから、東急は3月28日から準急の運転時間を前倒しする一方で、都心への別ルートになる大井町線では所要時間が6分短い急行を運転。「沿線の通勤客は平成37年ごろまで増える見込み。品川方面への通勤客が大井町線に移ってくれれば」と期待する。
 18年度に大手私鉄で最悪の混雑率を記録した東京メトロ東西線東京メトロは企業にオフピーク通勤への協力を呼びかけてきたが、労働慣行の壁は厚く、効果はほぼゼロ。そこで昨年12月から今年2月末まで、「早起き通勤」者に特典を与える混雑分散作戦を実施した。
 対象は、高層マンション建設ラッシュなどで利用者が急増する浦安から東陽町までの5駅。午前6時半からの約40分間、パスモなどのICカード定期券で改札脇の専用端末にタッチし、20回以上の記録があれば1000円分、40回以上なら2000円分の商品券と引き換えた。
 期間中20回に到達したのは4500人弱。営業企画課の渡辺信広課長補佐は、このうち5%前後がピーク時からの“乗り換え組”とみる。「早起き通勤を続ける人が増えてほしい」と祈る気持ちだ。
 日本民営鉄道協会によると、大手私鉄16社の混雑率は昭和40年度の238%から平成18年度は156%に改善した。新線開発や複線化・複々線化といった各社の輸送力増強工事が実を結んだ形だ。ただ、混雑率200%を超える路線が依然散見され、通勤苦の解消にはほど遠い。
 鉄道の運行システムに詳しい工学院大学高木亮准教授は「運行間隔の短縮には、加速性能に優れた新車両の導入や信号システムの改善が有効。鉄道各社はハード面の整備にもっと真剣に向き合ってもいいのではないか」と話している。

産経新聞 2008年4月18日]