和歌山電鉄・貴志川線 運行開始1年

紀州ジグザグ:和歌山電鉄・貴志川線運行1年 快走、乗客大幅増 /和歌山

◇JRと接続改善、住民も支援
 和歌山電鉄が、南海電鉄から貴志川線の運行を引き継いで今月1日で1年を迎えた。「いちご電車」の導入やイベント開催などで約1割も乗客が増え、「120点の出来」(小嶋光信社長)という。好調なスタートを切ったが、貴志川線再生へ向けた取り組みは始まったばかり。この1年を振り返り、今後の課題を探った。
 「皆さんの物心両面の協力と行政とのスクラム、社員の献身的な働きがかみ合い、良い滑り出しができた」。1日、小嶋社長は笑顔でこう話した。06年度の乗客(見込み)は約210万人で、05年度の約192万人から大幅増となった。
 和歌電の乗客増への取り組みは、引き継ぎ前に始まった。昨年3月、利用促進策やまちづくりに住民、自治体の意見を反映させようと、運営委員会を設立。月1回、経営状況やイベント開催、不便な点などを率直に話し合い、できることから改善を図っている。
 さらに、乗客のニーズをつかむため、同5月には日本政策投資銀行地方鉄道再生研究会と貴志川線の未来を“つくる”会の協力で、アンケートを実施。要望の多かったJRとの接続の改善や終電時間の延長をダイヤ改正に合わせて行い、駅前に車を止めて電車で移動する「パークアンドライド」推進のため伊太祈曽駅前に駐車場を設けた。
 また、楽しんで利用してもらおうと、同8月に「いちご電車」を導入した。今年1月には貴志駅前の売店の猫を駅長と助役に任命して話題を集め、グッズの売れ行きも好調。社員が沿線の住宅に時刻表を配って回るなど、地道な活動も続ける。
 住民らも支援を続けた。“つくる”会や沿線の高校は、定期的に駅周辺を清掃。沿線や車内で開かれたイベントは50回近くに上り、コンサートや祭りなど、市民の主催も少なくなかった。
 さまざまな工夫の結果、南海時代は年間約5億円だった赤字が、06年度の見込みは約8000万円まで圧縮。沿線自治体が支払う赤字補てん額8200万円と、ほぼ同額になった。しかし、開業準備期間に生じた赤字を償却し、沿線自治体の財政支援が切れた後も運営を継続するには、一層の増収が必要。この1年で既に多くの手を打ってきただけに、決して楽な道ではない。渡辺寛人常務は「再度コスト意識を徹底するなど、できるところからやっていくしかない」と話す。
 5月6日に紀の川市立西貴志小学校で「第2回貴志川線祭り」があり、8月には「おもちゃ電車」の導入も予定される。話題の一方で“つくる”会の浜口晃夫代表は「乗る仕掛けは大切だが、企業努力だけでは限界もある。住民の協力はもちろん、公共交通の観点から国レベルで鉄道支援策を検討する時に来ているのでは」と指摘している。

毎日新聞 2007年4月15日]