しなの鉄道③ 譲渡問題

トンネルを抜けて:しなの鉄道の今昔/3 「篠ノ井~長野間」譲渡問題 /長野

◇避けたい再赤字転落
 “倒産寸前”から厳しい経営努力で黒字化を進めたしなの鉄道だが、新たなハードルが待ち受ける。6月からの運賃値上げについて、井上雅之社長は「長野以北を担うことを想定すれば、このタイミングがぎりぎりだ」と語る。
 井上社長が指摘する「長野以北」とは、北陸(長野)新幹線の金沢までの延伸に伴い、JR信越線「長野―直江津間」がJRから経営分離されることを指す。開業は14年度末に迫っており、事業主体はしな鉄が有力視されている。
 この件に絡み、今年1月、県とJR東日本のトップが会談した。同社の役員応接室で村井仁知事は「過去のいきさつはともかく、篠ノ井―長野間の経営権はこれから協議をしていきましょう」と清野智社長に申し入れた。清野社長は「相当厳しい話になると思うが続けましょう」と応え、両者は握手を交わした。
 県にとって「篠ノ井―長野間」の経営権問題は長年の懸案だ。長野までのフル規格での開業が決まった90年。「軽井沢―長野間」を主張する県に対し、JR東日本は「軽井沢―篠ノ井間」を示し、「篠ノ井―長野間」は自社の所有にこだわった。同区間にはJR東海の特急電車も乗り入れる。「長野と中京間を結ぶ都市間輸送の使命を担っている」と譲らなかった。
 県がこだわるのは収入面のメリットもある。この区間はわずか9・3キロで年間14億円の運賃収入(02年需要予測)がある。一方、しなの鉄道は65・1キロで22億円しかない。県交通政策課でJRとの交渉を担当した飛沢文人さんは「長野五輪を控える県がJRに押し切られる形で決着した。鉄道事業者としてのプライドも感じられた」と話す。
 このまま、しなの鉄道が長野以北の並行在来線も経営譲渡されると、路線が「篠ノ井―長野間」で分断されることになる。県交通政策課は「もともと需要が少ない長野以北を持つ場合、篠ノ井―長野間がなければやっていけない」と語る。
 長野市内で今月18日に開かれた「北陸新幹線沿線関係都市連絡協議会」では「しなの鉄道の一体的経営を視野に入れ、篠ノ井―長野間の経営権問題をねばり強く交渉すること」を決議した。県関係者は「しな鉄が再び赤字になり、県が財政支援をする状況だけは避けたい」と警戒する。しなの鉄道幹部は言う。「開業時のように、甘い見通しのまま、時間切れを理由に長野以北を持つことは避けなければならない」

毎日新聞 2007年5月31日]