急行「銀河」 ラストラン予約30秒で完売

遅くて早い魅力…廃止間近「銀河」、ラストラン予約は30秒で完売

 《二二時四五分東京発の寝台急行「銀河」が、井崎の愛用している列車だった。この列車は、翌朝の午前八時〇〇分に大阪に着く。ゆっくりと、大阪本社の会議に間に合うということである…》(西村京太郎著「寝台急行『銀河』殺人事件」から)。ビジネスマンに重宝された異色のブルートレイン、寝台急行「銀河」(東京-大阪)が3月14日で姿を消す。
 最終日の予約受け付けは開始30秒で終了。ラストランまで1カ月を切り、東京駅の発着ホームには熱心なファンが連日押し寄せている。

■遅くて早い
 現在、「銀河」は午後11時に東京駅を出発し、午前7時18分に大阪駅に到着する。新幹線の最終・始発よりも“遅く出て、早く着く”ことから、時間を有効に使いたいビジネスマンや単身赴任者に人気が高かった。「新幹線の最終に乗り遅れたお客さんを案内したこともあった。出発時間を聞いて『あと1時間飲み直してくる』と言い残し、また繰り出す人もいましたよ」と東京駅で勤務経験のある関係者が笑う。新幹線の新大阪行き最終は午後9時20分だ。
 昭和25年、東京-神戸の夜行急行に「銀河」の愛称が付けられ、43年から東京-大阪を結ぶ寝台急行になった。51年に青い20系客車が導入され、ブルトレの仲間入りを果たした。ブルトレの定義はマニアによってまちまちだが、(1)寝台特急である(2)動力車が客車を牽引(けんいん)する(3)車体が青い(4)20、14、24系車両を使用する-ことが条件とされ、急行の「銀河」を含めない厳格なマニアも存在する。

■味気なくなる…
 午後10時20分ごろ、入線を告げるアナウンスが流れ、東京駅10番ホームにEF65形電気機関車に牽引されて「銀河」が現れた。待ち構えていた鉄道ファンが走り回る中、スーツとコートに身を包むビジネスマンが乗り込んでいく。
 出発までの間、EF65は切り離され、ホームを挟んで反対側の9番線に入り、ぐるりと1周する形で10番線に戻る。進行方向が変わり、入線時は最後尾だった電源車「カニ24形」が大阪向きの先頭になるためだ。ホーム端に鉄道ファンが集まり、かたずをのんでEF65とカニ24の連結作業を見守った。
 出張帰りのエンジニア、松田健志さん(35)=兵庫県西宮市=は「3段ベッドだったころの狭苦しい印象が強いのか嫌がる人が多い。同僚は新幹線で帰ったが、『銀河』でゆっくり寝て駅からまっすぐ会社に行く方がいい」と話し、「学生時代から愛用していた。出張が味気なくなる…」と寂しそうだ。

■マニアの暴走?
 JR西日本によると、14日午前10時に始まったラストランの予約受け付けはわずか30秒で完売。残り1カ月を切り週末はすでにほぼ満席の状態という。最後の盛況ぶりに「『葬式走』ってやつは好きじゃない。なくなることが決まる前に乗ってくれなきゃ…」と本音を漏らす鉄道マンも。
 また、廃止が決まると必ずといっていいほど装備品を盗む不届きな輩が出没するという。「銀河」も2号車の行き先表示器が被害に遭い、粗末な紙製の字幕で代用していた。
 準備ができ次第、正規の字幕に交換されるが、ラストランが近づく中、惨めな姿での運行を余儀なくされた。一部マニアの“暴走”とみられるが、犯罪のうえに車両への冒涜(ぼうとく)でもあり、絶対に許されない行為だ。

■時代の流れ
 ブルトレの廃止は相次いでいる。3月15日のダイヤ改正では「銀河」とともに「なは・あかつき」(京都-熊本・長崎間、門司駅で切り離し)が役目を終える。JR西は「『銀河』も年々利用が減り続け、定員260人の平均乗車率は4割強。新幹線、航空機が便利なダイヤで運行するようになり、各地に安いホテルができてきた。列車の寝台設備の競争力は落ちており、やめざるを得ない」という。冒頭で引用した昭和60年初出の「寝台急行『銀河』殺人事件」に登場する東京支社販売課長の井崎は、月2回の大阪出張に「銀河」を使うことで、会社から支給される「新幹線グリーン料金+宿泊代」との差額を交際費に充てていた。今なら間違いなく格安の夜行バスを選ぶはずだ。
 一方、昭和63年にデビューした「北斗星」(上野-札幌)の成功以来、「カシオペア」(同)「トワイライトエクスプレス」(大阪-札幌)など充実した設備で豪華な旅を演出するのが寝台列車の主流。
 「銀河」には個室がなく、A寝台、B寝台ともカーテンで仕切るだけの開放型のみ。昔ながらの懐かしいブルトレとして好まれた半面、淘汰(とうた)されるのは時代の流れか…。

産経新聞 2008年2月17日]